【古谷実 『ヒメアノ〜ル』 全6巻】日常に潜む狂気の裏側はこんな風に

映画が面白かったので古谷実の原作の『ヒメアノ〜ル』を読んだ。映画とは扱うテーマに違いがあって興味深かった。

映画も漫画それぞれに重いテーマを扱い、心に訴えかけてくるものがある素晴らしい作品だと思う。

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ヒメアノ〜ルというタイトルの意味は?

ギャグ漫画を辞めてから古谷実漫画ではおなじみなのは、タイトルが独特で言葉の意味がわからないということだ。作中にタイトルの言葉は出てこない。

それでいてこれまでの古谷実の漫画は、タイトルが案に物語を示していて秀逸である。今回の『ヒメアノ〜ル』とは一体どういう意味なのだろう。

ウィキペディアによるとタイトルの由来はヒメトカゲという体長10cmほどの小型爬虫類で、つまり強者の餌となる弱者を意味しているという。

>>ヒメアノ〜ル - Wikipedia

弱者とは、いい年になるまで何もなくぼんやりと生きてきた岡田か、無差別に殺される普通の人たちか、はたまた普通でないものを抱えて生まれてしまった殺人鬼か。読み進めるほどに、考えさせられるタイトルである。

 

日常に潜む狂気の裏側はこんな風に

この物語は、性癖として人を殺すことに快楽を得てしまう人間の物語である。ほとんど無差別に殺されてしまう人たち。この描写がとにかくリアルなのだ。「そういうこともあるかもしれないな」と思わせる説得力がある。だからこそ、怖い。

 

殺人鬼の森田に同情するわけじゃないけれど、森田にも森田の言い分があり、これが考えさせられる。

モノで例えてしまえば、森田は大量生産されているモノの中で間違いなく不良品であり廃棄されるものだ。不良品が検品の目をすり抜けて流通してしまえば、社会に与えてしまうダメージは確実にある。なぜなら不良品だから。目的と合わないものだから。

でも生まれてきたからにはその不良品にも自分の存在理由がある。それでいて森田は自分を不良品だと理解している人間だ。ここにこの物語の重さがある。

森田の心の声が印象に残っている。夜の公園でベンチに佇む森田。

「あのオジさんはゴルフが好き・・・・
鉄道が好きな人もいるし・・・・釣りが好きな人もいる・・・・
・・・・世の中にはたくさん楽しいことがあるんだ・・・・
でも”稀”な側に入っちゃった人は損だな・・・・
例えば・・・・幼児しか好きになれないオジさんとか・・・・」

ヒメアノ〜ル』1巻96〜97p

森田は中学生の頃に自分が”稀”な側の人間だと自覚する。フツーじゃないと自覚した時森田は悔しさのあまり涙する。

 

全てにおいて平均的なフツーの人なんてどこにもいない。皆それぞれに個性を持っている。好き嫌いがあってそれこそ性癖もある。それが、たまたま社会から許されていないものだとしたら。

いかようにも解決し難い問題がここにあると思う。

 

リアルな描写。高橋は古谷自身?

ヒメアノ〜ル』には大きなドラマはなく、淡々と物語は収束していく。ドラマ性はないのだが、まるで日常を読んでいるようなリアルさだから、この出来事がどうなっていくんだという興味で最後まで読ませる。

リアルな事件は漫画としては地味かもしれないが、その事件に巻き込まれる人物の心の描写は秀逸だ。

森田のデタラメな犯行がなぜかうまくいってしまう感じや、それを見つけた男、高橋の正義感など、実際にあった話なのではないか?というほどの説得力がある。

むしろあの高橋という漫画家は古谷実自身なのではないかという風にまで思ってしまう。

作中で高橋が地味な見開きシーンを編集者にダメ出しされる様が描かれるが、この漫画のラストにはそれを彷彿とさせるようなシーンが描かれる。少なくとも、編集者にダメ出しされる経験は古谷実自身の実体験のような気がする。

 

おわり

1巻だけ買って読んだ時には、冴えない主人公に可愛い彼女ができていたので「またこのパターンかよ」と思って買うのをやめたのが『ヒメアノ〜ル』だ。

そんなスタートからこんな深いく重たいテーマまで描き切るとは、本当に凄い作品に出会ったなと思う。今後は古谷実の漫画は簡単には見限らないようにしないといけない。

 

 

↓原作とは違うテーマ。原作を知ってからだと、スピンオフというのか新しい別の作品といったほうがいいかもしれない。素晴らしい映画

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