社会に居場所がないから森の中へ姿を消し、27年間一度も人と接触せずに暮らした男の話。

ある日突然いなくなり、30年近く森で暮らした人が捕まったという驚きのニュースがあった。

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1986年、当時20歳の若者であるクリストファー・ナイトという青年は、突然森の中へ姿を消したのだという。そして森にテントを張り、そこで一人で暮らした。生きていくために近隣の別荘から必要なものを盗み続けて、社会と関わることはなくひっそりと静かに暮らしたのだ。

そんな生活を彼は27年も続けていた。27年間誰とも話さず、誰にも見つからず。そんなことってありえるだろうか?作り話にしても穴だらけな感じがするが、これはどうやら現実の出来事らしいのだ。

 

この話を聞くと様々な疑問が湧いて出る。「なぜ森に入ったのか?」「盗みだけで森で暮らしていけるのか?」「盗みの被害者は犯人を探さなかったのか?」「家族は捜索願を出さなかったのか?」「27年も見つからないことは可能なのか?」。

全く訳がわからない話である。謎だらけだ。だけどどこか惹かれる話でもある。

画像で見る捕まったクリストファー・ナイトの姿はどこかインテリジェンスを感じさせる。これにも困惑させられるのだ。「27年間一人で森で暮らした」と聞くとどんな野生的な人間かと想像するものだが、ナイトの姿はとても森で一人で27年間テントで暮らしてきた人間とは思えない。

服装は小綺麗で清潔感もある。ヒゲこそ伸びているものの、端正な顔つきである。天才的な大学教授のような雰囲気すら感じる出で立ちである。

 

ナイトの生い立ちは普通のようでいてちょっと特殊である。

兄が4人妹が1人、低中産階級の家庭に生まれる。あまり裕福ではなかったが子供達は頭が良かったらしい。そして、その一家はほとんど人付き合いをしなかったらしいのだ。それがナイトが27年間見つからなかった理由の一つだ。

家族は警察を呼ぶこともせず、行方不明届けも出しませんでした。私は地元の警察に、家族が捜索願を出さなかったことを不思議に思わなかったのかと尋ねました。警察はこう答えました。「思いませんでした。あの一家はほとんど人付き合いをしませんでしたから。息子がいなくなったら、それはそれで仕方ないという気持ちだったのでしょう」。家族が息子のことを心配したのは間違いないと思います。しかし警察には知らせなかった。それはあの家族の流儀に合わないことだったのです。

 

ナイトのようないわゆる「世捨て人」と呼ばれる人たちは3つのタイプに分類することができるという。抗議者、殉教者、追求者の3つだ。読んで字のごとくであり、わかりやすい。古来からこのような世捨て人は常に存在するらしい。

しかし、ナイトはこの3つのタイプのどれにも当てはまらない。記事では

彼の孤立状態は、人類史上の誰が経験したものよりも揺るぎなく、完全なものでした。

と伝えている。この記事のライターは実際にナイトに合い、一緒に森を歩き、彼の野営地まで行ったという。そして彼の森での暮らしぶり、そのサバイバル術に感銘を受けたと。

 

記事ではナイトについて色々と書かれてはいるが、結局のところ、彼がなぜ一人で森で暮らしたのかということは僕には理解できなかった。

理由らしい理由といえば、「人と接触したくない」という一点だ。ナイトは子供の頃から内向的で、人とのやりとりが恐ろしいほど複雑だと感じていたらしい。そして森に入り森で暮らすことに充足感を得ていたという。

我々は人生に何を求めているのでしょう。充足感、自由、それとも幸福の追求でしょうか。ナイトはおそらく単純に、しかも心の底から、他人と一緒にいることが嫌で、森の中なら充足感を得られると考えたのでしょう。
(中略)
ナイトが社会を離れたのは、この世界に居場所がなかったからです。ナイトは非常に聡明でありながら、社会に適応できなかった人物です。

ナイトは別に森が好きというわけでもないようなのだ。人が嫌いだから社会では暮らせない。でも死にたくはないからどこかで暮らそう、そうだ森がいい。ということなのだろうか。

 

この記事ではナイトは世捨て人の3つのタイプのどれにも属さないと書いてあったが、僕は追求者に分類できるのだと思う。「人が嫌い」という一点の追求者であるように思える。

それにしても不思議な気持ちになるニュースだった。