読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

冨樫義博『HUNTER×HUNTER』1〜33巻一気読み。ネタバレなしの感想文

f:id:slices:20170318184517j:plain

18年にも渡る物語を一気に読んだ。18年というのは『HUNTER×HUNTER』の第1巻が発刊されてから最新刊の33巻が発刊されてるまでの期間である。なかなか読む手を止められず睡眠時間が削られる日々を過ごした。ここでは、一気読みして2日ほど経った今の雑感を記しておこうと思う。

ネタバレはあんまりしていないつもりなので、『HUNTER×HUNTER』を読んだことがなくて興味がある人にも読んでもらえれば嬉しい。

 

ゴン、クラピカ、レオリオ、そしてキルア

まず仲間との出会いがある。主人公ゴンは野生児。天真爛漫な典型的な主人公タイプだ。クラピカは冷静沈着で知的な職人気質なタイプ。しかし自分の目的になると感情的になってしまうという人間味も持っている。レオリオは盛り上げ役だ。能力はもっとも劣っているような気がするが、仲間想いで、人としての力や人格で乗り切っていくタイプ。今後レオリオが効いてくるエピソードが必ずあるはずだ。

そして最後にキルアである。主人公のゴンと同い年で、いいライバル関係にある。殺し屋稼業の冷徹なキルアは、『幽☆遊☆白書』を読んていた僕にとっては見た目からも真っ先に飛影を連想させる。というかゴン→幽助、クラピカ→蔵馬、レオリオ→桑原というふうに見てしまうのが普通だろう。

 

キルアの成長物語

しかし、『幽白』の飛影と違ってキルアは『HUNTER×HUNTER』において、ほとんど主人公のような扱いなのである。「『HUNTER×HUNTER』とはキルアの成長物語である」といっても過言ではないのだ。

主人公のゴンはわりと最初から変わっていない。天然素材という感じで、最初から答えを持っているようなところがある。いい意味で成長はしていない。最初からハンターとしての資質を持っているのだ。

しかしキルアは違う。殺し屋稼業で半ば洗脳されて12歳まで育ってきた。それがゴンと出会うことによって大きく変わる。友達、仲間と呼べる存在に出会ったことで変わっていく。そこには葛藤もあり、悩み苦しむキルアだが、その壁をすべて乗り越えて成長していく。立派に成長していくのだ。多分『H×H』ではゴンよりもキルアの心の機微の方が多く描かれているんじゃないだろうか。

キルアの成長が『H×H』の醍醐味の一つと言える。

 

強さのインフレとの戦い

『H×H』は基本的には少年漫画の王道のバトル漫画である。敵を倒し、主人公たちが成長するとまた新たな強い敵が出てくる、といった構図。強さがどんどん上書きされていくのだ。こうなると、どのバトル系の漫画でもそうなのだが”強さのインフレ”との戦いとなる。

「あれだけ強かったあいつがすんなりやられちゃうの?」という演出がバトル漫画においてはゾクゾクする展開を生む必須条件となるが、同時に、それまでの過去の物語の存在が薄まってしまって作品から心が離れてしまうきっかけにもなりかねない。

そこへ『H×H』では「念能力」という概念を導入される。これは純粋な強さとは違う尺度だ。ジャンケンのような形で、能力同士の相性を作っていって「この分野は強いけど、この分野は弱い」といった感じで能力の強さに幅をもたせている。これはうまいなと思った。純粋な肉弾戦のバトルの強さに能力バトルの要素を足したのだ。

もちろん、純粋な強さを示す能力もあるが、この肩を透かすような能力もあり、相性の組み合わせで複雑化するので強さのインフレに向かわずに自由に展開できる。ありがちな1対1のバトルではなく、チームの能力をうまく組み合わせた戦略バトルが面白い。

とはいえ、この画期的な念能力も結構早い段階で”コピーした能力はなんでも使える”というラスボス感のあるキャラクターが出てきてしまう。この能力の登場はちょっと早すぎるんじゃないかと思った。もうなんでもありになってしまうからだ。ドラゴンボールでいうと魔人ブウとかそんな感じである。魔人ブウといえば『ドラゴンボールZ』では物語の最後の敵である。

ただ、このラスボス感満載のこのキャラクターをうまい具合に物語から退場させ、また物語の先の可能性として含みをもたせている。この辺りの話の流れの作り方が上手い。

 

キメラアント編とかいう批評性のある作品

昨今、「日本のお笑いは批評性がない」という指摘が話題になっているが、『H×H』は、特にキメラアント編は批評性のある作品である。単に面白いというだけでなく、色々と考えることになる深い内容だ。

キメラアント編の舞台は自給自足を掲げ、外国との関わりはほとんど行っていないという国。そこでは「自然と共に生きる」を世間体として裏ではドラッグを作り金を儲けている。なんとなく、アヘンを製造して生活しているアジアのどこかの国を彷彿とさせる。他でも、宗教で洗脳し、純粋な信者からお金を巻き上げている宗教家の皮肉とも読めたりするところがあったりする。

そんな閉鎖された国に純粋な力が降ってくるのだが、そこは大義名分を隠れ蓑に悪いことをやっている人間ばかりなので、その純粋な力は悪の方に傾く。中には正義もいるのだが、悪の方が多いというところがポイントだ。悪だから敵になるし、元は人間だったものが相手になっている。

ものすごい緊張感を持って進んだキメラアント編のエンディングも、かなり皮肉が効いている。人間社会のことを思わずにはいられないような、心に訴えかけてくるものが詰まったエンディングなのだ。本当の悪など存在するのか、ただ立場の違いがあるだけじゃないのかと考えることになる。

決して勧善懲悪の世界ではないのだ。これは現実と地続きであると思う。これがバトル漫画の金字塔である『ドラゴンボールZ』とは一線を画すところだ。これが少年漫画で読めるって、すごい。

 

おわり

HUNTER×HUNTER』はやはり名作だった。冨樫義博が続きを書かず、なかなか物語が進まないという噂が有名だったから完結してから読むつもりだったが、ついに手を出してしまった。一気読みで一冊数十分で読み続けてきたペースが、今後は次の1冊まで年単位で待たなければならなくなる。

冨樫氏が遅筆な理由は仕事をせずにゲームに興じているからなんて噂がネットではあったりする。それでも「まあこんだけ面白いんだから仕方ない。黙って待つか」と思えるほど面白い作品である。

 

 

slices.hatenablog.com

 

広告を非表示にする