諦めから始まる前向きな姿勢/中島義道「働くことがイヤな人のための本」

僕は、なんの疑問もなく、好きでもない職業にすんなりと就き、そこで人生の大半を過ごす人の意味がわからない。

中島義道著、「働くことがイヤな人のための本」は、まさにタイトルの通り、働くことがイヤな人のための本なんである。僕のための本である。

ただ、働き方に対して具体的な考えを示すような、簡単なハウツー本ではなかった。だけど、僕がこれほどまでに共感した本は未だかつてなかった。

 

この本は対話形式に進む。哲学者の中島義道が、働き方に悩む4名と対話しながら考えを深めていく構成だ。(実際のグループディスカッションではなく、架空の4名)

4人ともいろんな理由で悩んでいる。25歳の若者から、社長を定年まで勤め上げた男性まで。僕は4人とも共感できるところが多々あった。

 

忘れてしまった本音

なぜ働くことがイヤか。それは自分の好きなことができないからである。単純に全く面白くないからである。

ある職業について、そこから面白さを見出していく方法もあるけど、それは本当なのかと思ってしまう。

こういう引っかかりがない人は器用な人だなと思うけど、ほとんどの人が器用なようだ。世の中は、好きでもない仕事をして働いている人ばかりだ。

 

自分がたまたま生まれてきて、そしてまもなく死んでしまう「意味」を知りたいのだ。これほどの不条理の中にも、生きる一条の意味を探り当てたいのだ。充実して生きる道を探しているのだ。それが、何にも増していちばん重要なことなのだ。

早くも哲学的だ。これは誰しもが持っているけど、いつか忘れ去ってしまった本音だと思う。働く日々の忙しさにかまけて忘れてしまいがちな大切な本音だ。

気がついたら生きているから、死なずに今も生きているわけだ。そうして、年をとって一人で生きていかなければならないから、働いて収入を得て暮らす。

仕事、ただそれだけでも大変だから忘れてしまう。みんなきっとやりたかったことはあるはずだ。

 

そして、残念なことに、成功しない場合がほとんどである。こうしてため息をつきつつ、社会に対する復讐の大計画を練っているうちに、その一条の光も輝きを失い、いつしか闇に消えてしまうのだ。

生きる道を探し、好きなことをやって暮らす。とても理想的な生き方だ。ただし、成功しない場合がほとんどである。なのでいつかは抱いていた本音を失ってしまう。

そしてみんな高卒とか大卒とか、社会に合わせた人生の節目の時に、現実と折り合いをつけてやっていくのだ。

そういうことに違和感がある僕は、未だにフリーターである。

 

人生とは「理不尽」のひとことに尽きる

働くことは人生の大半であって、大きなテーマだ。そしてこんな本を手に取ったりする。自己啓発本や働き方の本は何が書いているのか、だいたいわかっていても買ってしまう。それで一時は安心するのだ。

 

仕事に関する本は二つに大きく色分けできるという。一つは、叱咤激励してストレートに成功へ導く本。もう一つは肩ひじ張らず、自分らしく人生を歩もうという本だ。その上で、

だが、私が言いたいのは、この何でもない。もっと身も蓋もない真実である。すなわち、人生とは「理不尽」のひとことに尽きるということ。思い通りにならないのがあたりまえであること。いかに粉骨砕身の努力をしても報われないことがあること。いかにのんべんだらりと暮らしていても、頭上の棚からぼたもちが落ちてくることがあること。いかに品行方正な人生を送っても、罪を被ることがあり、いかに悪辣な人生を送っても称賛され賛美されることがあること。

そして、社会に出て仕事をすることは、この全てを受け入れるということ、その中でもがくということ、その中でため息をつくということなのだ。

ともかく、この本ではことあるごとにこの世は理不尽だと語られる。そしてそれは100%の事実である。

理不尽に対して自分がどう振る舞えるか、それがきっと人それぞれの「働き方」であり「人生」だ。

 

理不尽に対して

ことあるごとにこの世の理不尽を語る哲学者、中島義道。これに対して対話する4人から、一つの答えが出る。

よくよく考えれば全て理不尽だということ。ただ、私たちは理不尽じゃないふりをしているだけだということ。そうでもしなければ、辛くて不安でたまらないからです。(中略)
そう考えると、私ホッとしたんです。

 

この社会は好きでもない職業に就き、暮らしている人が大半だ。そうした人々にどこが疑問を感じる。好きなことをやり続けることができない現実に違和感がないのか、「本当にそれでいいの?」と僕は考え続けてしまう。

だけど、みんな理不尽を受け入れているのではない。みんな不安だし、辛く苦しい。その上で自分ができることをやっているのだ。

 

 

最後に

共感できることがたくさんあった。身も蓋もない話ではあったが、どこかスッキリした。

この本では最終的にテーマは「死」になって、深い哲学の話になっていく。それでいてやっぱり答えは出ないのだけど、僕は読んでよかったと思う。

 

理不尽を受け入れることは難しい。理不尽に対しては、諦めから始まる前向きさを持ち合わせたい。答えはないけど、そういうことを思った。

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